雪庇:

学者と登山家が協力、掘削調査 形成・崩落メカニズム探る−−富山・大日岳

 ◇2501メートル・大日岳で巨大な雪庇掘削調査

 北アルプスの大日岳(だいにちだけ)(富山県、標高2501メートル)の山頂で4月17日から27日まで、雪氷学者と登山家ら約50人が参加し、高さや長さが数十メートルに発達した雪庇(せっぴ)の調査が行われた。雪庇の形成や崩落のメカニズムを探るもので、高山での巨大な雪庇掘削調査は世界でもほとんど例がない。遭難防止に役立つと期待されるほか、学者と登山家の協力という危険に満ちた環境科学分野での新しい手法も注目されている。

 雪庇は、山の稜線(りょうせん)の風下側に、庇(ひさし)のように出来た雪の吹きだまり。崩壊は雪崩の引き金になることが多い。

 今回、調査を行った現地では00年3月、文部科学省登山研修所主催の大学山岳部リーダー冬山研修中に、突然、足下の雪庇が崩落し、学生2人が死亡する事故が起きている。例年よりやや小さいとみられる今年の雪庇でも、稜線から先端まで約32メートル、厚さは約20メートルに達していた。

 調査団として大日岳積雪地形研究会(代表幹事、斎藤惇生・元日本山岳会長)が組織され、川田邦夫・富山大教授や飯田肇・立山カルデラ砂防博物館学芸課長、横山宏太郎・中央農業総合研究センター室長ら専門家を、プロの山岳ガイドや日本山岳会員らが現地でサポートした。

 調査は、雪庇が崩壊する危険性を考慮し、ザイルで安全を確保しつつ、雪庇の変形を監視しながら慎重に進められた。

 稜線から雪庇の先端に向けて深さ3メートル(最深部)、幅2メートル、長さ37メートルにわたってトレンチ(大きな溝)を掘削。さらに地表面近くまで達する竪穴(ピット)を4カ所掘り、アイスドリルによる掘削も加えて、雪庇の断面構造を詳細に調べた。

 また、地中レーダーを用いて広範囲に山頂付近の積雪表面の形状の測量や積雪の深さなどの測定を行い、巨大雪庇の三次元的な広がりも総合的に調べた。

 データの解析はこれからだが、川田教授は「日本では雪庇の調査研究の実例は数少なく、巨大雪庇を手術するように内部調査したのは初めてだ。雪庇の形成過程などについて研究者、山岳関係者でも考え方が一致していないのが実情。こうした調査を通じて今後、雪庇の特性を明らかにしたい」と意気込んでいる。【斎藤清明・総合地球環境学研究所教授(元毎日新聞専門編集委員)】
毎日新聞 2005年5月18日 東京朝刊

調査が行われた大日岳山頂付近。山頂から右の方向に雪庇が出来ている。 トレンチを掘削する登山家と研究者。