厳冬期若丹国境尾根縦走

(2006年2月21−24日)

阪本公一

 積雪期のヤブ山縦走を始めてから今年で5年目。今回は、京都府と福井県の県境にある若丹国境尾根を歩いてきた。
 1,000mにも満たない低山だが、非常に長大な稜線で、日本海からの強風と悪天の影響をまともに受ける豪雪山域なので、一度での完全縦走は難しい。昨年10月から12月に掛けて3度にわけて偵察を行い、今年は三国峠から八ヶ峰までの縦走計画とした。
 メンバーは堀内潭さん(65歳、AACK)、山田睦郎さん(63歳, AACK)、八木昭二さん(67歳、熊笹の会、日本山岳会京都支部)とリーダーの私阪本公一(65歳、AACK, 日本山岳会京都支部)の4人。実働4日、予備2日、合計6日の食糧を担いで、2月21日に出発した。ザックの重さは共同装備・食糧合計6kg を加え、各自約20kgであった。

2月21日(火): 曇り後晴れ。
 7:09/京都駅発JR乗車、7:57/安曇川駅着。8:02/安曇川駅発江若バス乗車、8:30/朽木学校 前着。8:30/朽木学校前発町営バス乗車、9:30/生杉着。9:40/生杉 - 10:10/若走路谷出合 - 13:15/クチクボ峠 - 14:20/三国峠(775.9m) -16:20/野田畑峠の少し手前のコル(幕営)。

 生杉村での積雪は1.5 - 1.6m位。若走路谷は、水の流れるところが1.5 - 1.8m位の深い雪の溝になっていた。谷を右左に渡らねばならないところでは、何カ所か雪壁を登り降りさせられた。若走路谷上部のナメ滝は完全に雪に埋まっておらず、滝の中間に穴がいていた。滝でスリップして雪穴に落ち込んでしまうと危険なので、8mm x 20m のロープを固定して安全に通過。ナメ滝の上の滝は直登出来ないので、右に高巻いて滝上におりた。
 クチクボ峠からは積雪は約2m。前日の雨で雪はしまっていて、膝下くらいのラッセルで割と楽に歩けた。三国峠からは、北に百里ヶ岳、南東に比良連峰がのぞまれる素晴らしい景色。
 P767m迄は比較的広い尾根。雪のないときには「435」と書いた石柱のあるところから、尾根はV字状に北へ曲がる。この屈曲点は、大変間違いやすい箇所。堀内さんの GPSで現在地を確認しながら進む。野田畑峠の手前の風の当たらないブナ林の中で幕営。


生杉バス停前
若走路谷を登る
若走路谷のナメ滝にルート工作


2月22日(水):濃霧、後晴れたり曇ったり。早朝は強風。
4:30/起床 - 6:55/幕営地 - 7:20/野田畑峠 - 7:40/P731m - 11:00/杉尾坂 - 14:50/権蔵坂(幕営)。

 稜線には強い風が吹き、視界50m位の濃霧。稜線は雨でクラストした雪になっていたので、ワカン・アイゼン(6本爪)で歩くことにした。
 野田畑峠よりの稜線はくねくねと曲がりながら、西にのびる。P731m、永谷山(シンコボ)811.4m手前のジャンクション・ピーク、と登り降りがつづく。P812mには登らずに稜線が南東に曲がる地点が迷いやすい。誘導するようにつけられたテープに助けられて、支尾根に迷い込むこともなく快調に進む。
 杉尾坂からは、福井県側の杉の植林地帯と京都側の落葉樹の灌木との境目ぎりぎりのところを歩く。京都側によりすぎると、支尾根に迷いこんでしまいそうな場所が何カ所か有り。雨で堅くなった急斜面もでてくるが、ワカン・アイゼンがよくきいてワカンだけより安心感が大きい。
 P695mより北西に福井県名田庄村の堂本までのびる長い支尾根に迷いこまないように、山毛欅林の中の急雪面のわかりにくい主稜線をおりると権蔵坂。夕方より小雨がぱらつく。


野田畑峠からP781mへの登り
どこまで歩いても同じような樹林帯が続く
(永谷山881.4mの手前のピーク(右)より南に続く若丹国境尾根の稜線)
権蔵坂のテント地


2月23日(木):曇り、濃霧。
 4:40/起床 - 7:30/テント地 - 8:00/P692m - 8:50/P682m - 10:50/五波峠 - 12:30/P691m 手前のコル(幕営)。

早朝の小雨が止まないので、テントの中で30分ほど待機。権蔵坂より、P692m, P682m
と小さなアップ・ダウンがつづく迷いやすいところ。稜線から少し外れたP747mに登ってしまわないように注意して、広い山毛欅林の稜線を五波峠へ。峠は京都の美山から福井県の名名田庄へ通じる林道が走っている。広い明るい峠だが、日本海からの強風が吹き抜けて寒い。
 五波峠からは2m幅の立派なハイキング道がついていて、歩きやすい。P708を越えて
次のP691mの手前の山毛欅林の中の風の当たらない広い快適な窪地に幕営。天候にも恵まれ、予備日も使わずに予定どおり行程がはかどったので、少し早いが幕営して午後はのんびりと過ごした。
 アルコールはもって帰っても仕方がないので、山の中で飲んでいこうと、山の話を肴に飲み始めたら、一人でウイスキー500ccを飲んでしまっていた。

 
五波峠

2月24日(金):晴れ後曇り。
 4:30/起床 - 7:35/P691mの手前のコル - 9:40/八ヶ峰 - 10:14/知井坂 - 12:10/権蔵谷出合 八ヶ峰登山口 - 12:40/八原バス停。
 14:23/八原発町営バスに乗車し安掛へ。安掛より接続の町営バスにて周山へ。
 周山より接続のJRバスに乗車し、京都に16時頃帰着。 

 今日もワカン・アイゼンで出発。八ヶ峰まで、雪もクラストしており、深いラッセルもなく快調に歩く。八ヶ峰は立派な松の木が2本生えた、見晴らしの良い白い雪のピーク。松の木の下にあるベンチも、今は雪に埋もれて勿論見えない。遙か向こうに百里ヶ岳が確認されたが、三国峠は折り重なる山並みで同定出来なかった。
 知井坂より夏道を下り出したが、積雪期の夏道はヤブがかぶさっていたり、雪面のトラバースがあったりして歩きにくく危険なので、南にのびる尾根をおりた。 P685mの下の台地のピークより八ヶ峰スキー場跡を目指して緩い尾根を西側におりた。元スキー場の小屋のすぐ下の登山道にうまくおりられた。歩きやすい登山道を30分ほど歩いて、八ヶ峰
登山口へ無事下山した。登山口より約20分程車道を歩いて、八原のバス停。
 八原の集落近辺の積雪は1.5m位あったが、バスで安掛迄おりてくると積雪は殆どなかった。若丹国境尾根には、日本海から吹きつける雪がふきだまるようだ。

今回は天候にも恵まれ、昨年秋の3度の偵察とGPSの助けをかりて、厳冬期の若丹国境尾根を、大きな道迷いもなく、計画通りの日程で快調に縦走することが出来た。又、小浜山の会がつけられたのではないかと思われる黄色と黒のテープ、それに木に巻き付けた赤いビニールテープもルート判断に大変役だった。そして、峠や迷いやすい箇所につけられた20cm x 30cm 位の立派な看板も大変参考になった。それに加え、今年は雪が多いこともあったと思うが、全行程を通じて薮に悩まされることも殆どなく歩けたのも有り難かった。
 
 昨年秋に地元の小浜山の会、福井山岳会、日本山岳会福井支部に積雪期の若丹国境尾根縦走についての情報提供をお願いしたが、積雪期の三国峠や八ヶ峰の日帰りピストン登山の実績はあるが、積雪期縦走の記録はないとの回答であった。
 低山ヤブ山の積雪期縦走は、テントも、寝袋も、ザックも何もかもが湿雪と雨でずぶ濡れになる、むさ苦しくしんどい山旅だ。でも、もう劔や穂高の厳冬期登山をやれる実力も体力もない私のようなオジンには、積雪期の樹林の山旅は自然とのふれあいを身をもって味わえる楽しい登山だ。
 こうして歳相応の雪山登山を楽しめるのも、おつき合い願った3人の諸兄のお陰と深く感謝。


以上


GPSに関して(堀内記) 
 GPSを初めて使ったのは、一昨年の冬、マキノから三重岳を歩いた時である。偵察時、三重岳付近の広くて、入り組んだ尾根をみて、視界のきかない時この雪原を地図と磁石だけではとても歩けないと思い購入した。
 私は、山行前にポイントとなるピークやコル等の緯度、経度をGPSに打ち込んでおき,山行中は現在地からポイント迄の方向、距離をGPSに表示させ、それをもとに歩くという方法をとっている。この方法は磁石を使うのとほぼ同じ感覚で、一番時間を取らずに便利であると思う。只、示された数値はポイント迄の直線的な方向、距離であり、読図力なしには使えないものである。因みに、今回の山行では42ヶ所のポイントを打ち込んでおいた。