京都北山中央部厳冬期縦走

(2010年2月23~25日)

                                         阪本公一

 

 2002年に京都北山およびその周辺の低山藪山の積雪期縦走を始めてから、今年で9回目。県境尾根の主要部分は全て縦走してしまい、また実働3~4日の縦走ラインを引ける尾根筋も殆ど歩いてしまったので、新しい積雪期縦走の計画対象がだんだん少なくなってきた。今回の第9回目厳冬期縦走対象を、昨年2月の若江国境尾根南部縦走を終えてから、すぐに検討し始めた。花脊の奥の大布施から片波山(763.1m)に登り、稜線つたいに鍋谷山(859), 卒塔婆山(806m), 鴨瀬芦谷山(778m)から掛橋谷山(765.5m)まで縦走して、深見トンネル南口におりるラインを対象にしてはと当初考えていた。昨年6月に大布施から片波山に登り、鍋谷山から卒塔婆峠へ偵察山行に出かけたが、深見峠から花脊への京都府広域林道工事で稜線がずたずたに切断されてしまって、台杉の古木が沢山残っていたあの素晴らしかった尾根筋が無惨にも破壊されてしまっていることに失望してしまった。

 いろいろ検討の結果、広河原から佐々里峠に登り、品谷山(880.7m), P799, P772 の尾根筋を歩いて八丁出合橋へいったん降りて、林道を佐々里スキー場跡まで歩いて再度奥八丁山(752m)から掛橋谷山(765.5m)に登って男鹿峠から深見トンネル南口に下山するルートを縦走することにした。10月6~7日、および12月4日の2回にわけて偵察を行い、迷いそうな複雑な箇所に赤い布テープをつけて下準備をした。

 実働4日+予備2日、合計6日間の計画とし、2月23日出発で最終下山日を2月28日のスケジュールで実行することにした。今回のメンバーは、常連の堀内潭さん、この数年間御一緒願っている岡部光彦さんと、リーダーの私阪本公一の3名。今年70歳になる老人パーテイ。

 

2月23日(火):曇り時々晴。

 7:50/出町柳発 京都バス乗車、9:35/広河原着。9:50/広河原 -  11:50/佐々里峠 - 13:20/ダンノウ峠とのジャンクション・ピーク -  14:10/品谷山(880.7m)。

 今年は2月になっても割と暖かく京都近郊の積雪は非常に少ない。寒い冬には鞍馬近辺にも雪が積もっているが、今年は鞍馬にも、花脊にも全く積雪はなかった。広河原の近くになってようやく積雪が見られ、広河原のスキー場で約30~40cmの積雪。スキー場は休業しているのか、リフトは止まっていた。

 スキー場のすぐ上に車止めのゲートがあるが、ここからは除雪が全くなく雪の上を歩く。数日前の雨とその後の晴天で雪はしまっていて、ワカンなしで快適に歩けた。初日の今日は、6日分の食料、テント、ワカン、6本爪アイゼン等で荷物は約20kgと重たいが、時々日射しが見られる好天となり、景色を眺めながら、それほど苦労することなく11時50分に佐々里峠へ着いた。2008年2月22日にも広河原から佐々里峠まで歩いたが、その時の佐々里峠着は午後1時半だったから、雪の状態によって歩行速度は随分と違うものだ。

  峠からワカンを着けて急登を一段登りきると稜線はなだらかになり、雪もクラストとしていて非常に歩きやすい。稜線には、自由奔放に歩いた鹿の足跡が無数に見られた。いくつかのアップ・ダウンの後、30分ほどでジャンクション・ピークに着く。左の尾根を行けばダンノウ峠だが、我々は右手の尾根に着けた赤い布テープを目印に品谷山の方へ向かう。稜線は割と広く、しかも殆どラッセルもなく気持ちよい樹林の散策だ。2年前は、品谷山に着いたのは4時半だったが、今回は嘘のように楽な初日で、2時間以上も早く品谷山のピークに幕営することが出来た。今回は、思うところあって3人ともアルコールは全く持参せず、スープやお茶を沢山飲み、夕食をすませて6時過ぎに早々と就寝した。

佐々里峠
品谷山への気持ち良い尾根
品谷山頂上

2月24日(水):晴。

 5:00/起床 - 7:05/品谷山 -  9:22/P772 - 11:50/八丁出合橋 - 14:00/佐々里スキー場跡。

 昨夜は風の全くない静かな夜であった。前日に雪を溶かして水を沢山作っておいたので、朝の出発も時間的余裕があった。今朝は雪がしまっているので、ワカンと6本爪の併用で歩くことにした。品谷山(880.7m)からも尾根は広く、藪も少なくて歩きやすい。私の学生時代には、北山はものすごい藪こぎで歩きにくかったが、その後の鹿の異常繁殖の影響か樹林の山の下草や灌木が急激に減少して、稜線は随分と歩きやすくなった。

 品谷峠を越え、P827, P799と二つの山を越えて同じような景色の山毛欅やミズナラなどの樹林の尾根を歩く。広い尾根筋には、縦横無尽に鹿が歩きまわった足跡だらけ。「キーン」という鳴き声が聞こえ、お尻の白いまるまると太った大きな鹿が尾根の100メートル程先から谷の方に駆け下りていった。

 P772までは、意外と早く歩けた。ワカンに雪がダンゴ状について歩きづらくなったので、ワカンとアイゼンを脱いだ。P772から八丁出合橋までは下りになるが、支尾根がいくつか出ていて迷いやすく、かなり時間をくった。間違ってしまったのではと思うような濃いブッシュの尾根を強引に下って行くと林道が見えだし、出合橋のすぐ上まで降りてきていることを確認。昨秋に偵察した通り、出合橋からの左俣のすぐ上流におりるルンゼを目指して尾根をおりる。数多くの倒木が倒れていて歩きにくいが、傾斜の緩い斜面をよってこのルンゼの左側(上から見て)を巻くように八丁川へ降り立った。八丁川は雪で埋もれてはおらず、清い水が流れていたが、いくつかの石を川に投げ込み、飛び石として利用して、くるぶしくらいまで水につかりながら何とか渡渉した。

 出合橋からは、日陰に凍ってしまった雪が残る林道を延々と2時間ほど歩き、佐々里スキー場跡ヘ。八丁川のスキー場へわたる橋はなくなっていて、またまた渡渉となる。私はくるぶしまであるダブル・ブーツをはいているので、濡れることなく渡渉することが出来たが、後の二人は靴を脱いで冷たい水の中を素足で渡った。スキー場跡の食堂の横の広場に幕営。もう何十年か前に閉鎖されたのか、スキー場の正面の斜面には10メートル以上の大きな木も茂る樹林の山になっていて、とてもスキー場だったとは思えない状態。古びてさびついたリフトや、切符売り場、食堂、トイレ等の古い建物がなければ、誰もスキー場跡とは思わないだろう。テントを張り、春のような暖かい陽光に寝袋や濡れたマット等を日干する。陽が傾きかける頃よりテントに入り、お茶とお菓子を楽しんだ後に夕食をすませ、今日も早々と就寝した。夜半、テントのすぐ近くに来た何匹かの鹿が、しきりに鳴いていた。

P799 近辺
佐々里スキー場跡へ八丁川渡渉

2月25日(木):曇り時々晴。

 5:00/起床 - 7:00/出発 - 7:50/リフト終点 - 9:32/奥八丁山(752m) - 10:25/P731 - 12:08/鴨瀬谷山(765.5m) - 12:30/男鹿峠 - 14:20/深見トンネル南口。周山タクシーを呼び周山へ(\4,300.-)。15:40周山発のJRバスで京都へ。

 スキー場の左側の尾根へトラバースし、2メートルぐらいの幅の石ころの出た道を少し登ると雪面となる。6本爪アイゼンを着け、左側の尾根筋の右手の斜面を登る。雪はクラストしていて歩きやすい。傾斜は15~20度ぐらいか。灌木の生えている雪面をジグザグに標高差約150メートル程登ると、リフト終点に着いた。朝っぱらから、約20キロの荷物を担いでの急斜面の登りは結構しんどかった。

 晩秋の偵察時には、リフト終点より左手の急斜面のブッシュ帯の崖を灌木に捕まりながら尾根まで登らざるを得ないだろうと判断していたが、今回岡部さんがリフトの右手を大きくまわりこんで偵察し、緩斜面を登って尾根筋に簡単に上がることが出来た。この尾根は割と急傾斜のやせ尾根で、リフト跡から上の台地まで標高差約150メートル。雪は全くなく、ブッシュ帯を縫うように、落ち葉を踏みしめ、あえぎながら尾根を登った。リフト終点跡から約50分の登りだった。

 台地からは、傾斜も緩くなって広い稜線となり、6本爪アイゼンもはずした。なだらかな広い尾根をのんびりと50分ほど歩くと、奥八丁山(752m)の変哲もない頂上に到着。雪の全くない山毛欅混じりの広い樹林の尾根の小山を幾つか越えると、約1時間でP731に10時25分に到着。深い湿雪のラッセルを想定してP731着けるのは午後2時頃と予想しここで幕営する予定だったが、ラッセルが全くないので、出来るだけ先まで足をのばそうと快調なペースで歩き、掛橋谷山(765.5m)に着いたのはなんと12時5分。今回の最終ピークである掛橋谷山に到着を祝して、全員で握手。

 厳冬期のラッセル山行に来たのに、全く雪のない北山のピークを踏むのは何となく場違いな拍子抜けの感じ。30分足らずで男鹿峠着。偵察時は男鹿谷を歩いたが、道が途中で消失しており、しかも男鹿峠への最後の登りが倒木だらけでまともに歩けなかったので、単調だが安全に下山出来る広域林道を深見トンネル南口まで歩くことにした。退屈な林道を淡々と歩いた。食料も十分に沢山残っているので、風のない谷筋に降りてから幕営しようかとも考えていたが、明日26日が雨模様との天気予報なので、午後の早い時間に下山出来たことでもあり、今日中に帰宅してしまおうと衆議一決。

 深見トンネル南口から携帯電話で周山タクシーを呼び、周山のJRバス停留所まで車まで行った。ちょうどうまい具合に3時40分発のJRバスがあり、そのバスで京都に帰った。

佐々里スキー場跡
雪のないP731
見事な台杉
晩秋のような掛橋谷山頂上

 今年は、京都周辺は予想もしなかった暖冬の為、例年に較べて異常な程積雪が少なかった。周山タクシーの運転手の話では、2月6日に雪はちらついてから全く積雪はないとのこと。美山地区はもっと雪が少ないらしい。京都北山およびその周辺の滋賀県、福井県の低山ヤブ山にも例年なれば1メートル以上の積雪があり、厳冬期には深い湿雪のラッセルに苦しまされるのだが、何年かに1度は今年のような雪の少ない年があるのだろう。私たちは厳冬期のラッセル山行が目的だが、これが低山藪山の宿命なのかもしれない。

 しかし、京都の街から車で僅か1時間少し行ったところに、誰も出会う人も居ないこんな静かな自然美にあふれた素晴らしい樹林の山々が残っているなんて、なんとまあ我々は恵まれていることだろう。厳冬期らしい深いラッセルが出来なくても、こんな楽しい秋山のような山歩きが出来ることでさえ、非常に恵まれた幸せではなかろうかと思う。

 信頼出来る親しい山仲間と、誰も見向きもしない厳冬期の静かな低山藪山を縦走するこの楽しさを、まだまだ味わいたいと思っているが、果たしてこれから先、何年続けられるであろうか?