レーニン峰

安田隆彦

パミールのレーニン峰(7135m)を目指したが 高度順応に失敗し、ペトロブスコ峰(4700m)を登り、本峰は5800mまでで引き返してきました。

レーニンピーク(7135m)

スノーレオパード 旧ソ連邦に7000m級の山が5峰あり、全部登った人にスノーレオパードの称号が与えられる。
  パミール アライ山脈 ①Peak Communist 7495m ③Lenin Peak 7134m ④Korzhenevsky 7105m
  天山山脈  ②Peak Pobeda 7439m  ⑤Khan Tengri 7010m
このうちレーニン峰が一番登りやすいということで多くの人が挑戦している。しかし成功率はあまり高くない。正確な統計は発表されていないが1割から3割がせいぜいの数値。高度順応に失敗して敗退する人が多いのと、晴天ながら危険なほどの強風が吹く日が多く二番目の撤退原因になっている。

スノーレオパード5峰

登山基地運営会社 ベースキャンプとなるアキタシには4社がキャンプを張っている。
  大きい順に Ak Sai、Pamir Expedition,  ITC(Asian Mountains), Tien Shian。
各社とも数十人が宿泊できるようになっており Camp1にも同様に4社の基地がある。登山者はすべていずれかの会社の施設に何らかの形でかかわることになる。 一番自主独立派はテント地を借りるだけ、一番会社に頼って登る人はガイド、ポーターサービスすべて利用して登る。その中間を自由に選択できるようになっている。私が利用したPamir社は年間250人ぐらいが利用している。

国際隊 参加人員最大10人ガイド3人のグループ登山、1名でも催行とのロシアの斡旋会社の募集に参加した。蓋を開けたら参加者は私だけだったので図らずもガイドと二人で登るという良い条件になった。

ルート概要  BCはなだらかな草原の一番奥にある。北側が草原を見渡せ 東西を四千メートル級の山 南にレーニン峰が美しく見える。2人用の大きなテント群と食堂棟、サウナまである。夜は発電機で照明と客の要望の多い充電サービスをしている。
BC⇒C1 草原の一番奥にあるトラベラーズ峠を越えるとレーニン氷河に出る。氷河沿いに緩やかに登って 最後はモレーンの上を歩いてC1に入る。(標準6~8時間、実働8時間20分)
C1⇒C2 氷河を1時間歩いた後 アイゼン、ザイルを着ける。さらに1時間で氷壁に出る。2本張られたフィックスを頼りに登る。その上はクレバスが所々出てくるが危険なところは短いフィックスが張られている。割に急傾斜の氷河が続き、C2に近づいてすこしトラバース気味に歩く。レーニン峰頂上から凹面状に3000mの北壁氷面が眼前に迫る圧巻。スキー、スノボーの上級愛好者は頂上からの滑降を勲章としている。C2からは四方大雪面に囲まれた圧倒的な風景を楽しめる。(標準6~8時間、実働9時間)
C2⇒C3 ルンゼ状の雪面を登って稜線に出ると主稜線上にあるラズデニナヤ峰(6145m)に向けて稜線上を登る。途中5800mのコブがある。私はここが最高到達点。ラ峰を超えて鞍部に出たところにC3(6100m)。
C3⇒Peak(7134m) 長い雪稜の登り。6400mあたりから風が強くなり撤退者が多く出る。頂上往復17から22時間、平均で約20時間とのこと。

登攀ルート図

高度順応 前回アコンカグアのとき成功したペースで高度順応を実行した。半年後の今回、大きな変化があった。今まで一度も異常の無かった富士山訓練で初めて腹痛、頭痛を感じた。富士山と同じ高さのBCで7日間過ごしてから上に行く予定だったが、5日目に順応が旨くいっていないと判断、あきらめOshまで下った。Oshに着いたとたんに快調になり再度BCに戻ったがその時点でレーニン峰はあきらめ、2次目標のラズデリナヤ峰を目指すことになった。加齢と共に順応能力も低下してくることを感じた。
割に簡単にアプローチできる山のせいかロシア人を中心に多勢の登山家が挑戦している。
しかし順応不足で重大事故になるケースが多い。私の居る間だけでも4名が歩行困難になり内2名が死亡した。

ペトロブスコ峰(4700m) BCのすぐ横にある山で高度順応のために登る人が多い。多くの人は雪面の出てくる手前で引き返すが 頂上まで登った。雪面は上部の2cmぐらいがザラメ雪になっているが下はカチカチの氷。前夜の打ち合わせで6本爪のアイゼンと12本爪のとどちらでもいいというので6本を持っていったが氷を登り始めて10歩目にツルリときた。その後は爪のあるかかとだけで歩くよう努めたが硬い氷に消耗する。英語のほとんどわからないガイドで打ち合わせが旨く行かないのが問題だった。

ペトロブスコ峰(4700m)

ラヅデリナヤ峰(6145m) C1からC2までの標準タイムが6~8時間のところ9時間掛かった。最後の1時間は消耗して休み休みの歩き。テントについてからはぐったりしていたがロシア式のお湯を注ぐだけのスープ夕食を済ませたら疲れも取れた感じがした。明日の登頂に備えてよく寝た。C2から稜線に出るまでは普通に歩いたが 稜線に出てから急に一歩出すのに数呼吸してからでないと次の一歩が出なくなった。合わせて少し高度を上げるごとに強風の度合いが強くなりしっかり踏み込まないとよろけそうになる。頂上手前の岩峰5800mであきらめて引き返す。C2で一日休養してから登ればよかったが、自分の体力把握に失敗した。

レーニン氷河

温度差  太陽が出ていると真夏の暑さで、曇るととたんに冬の寒さになる。常に夏と冬の装備両方を持ち歩き対応しなければ快適に登れない。こまめな調整も強風の中では難しく、勢い汗をかきながらの登攀が多くなった。

基地 BCとC1は同じ作り。テントは中で立っても頭がつかえず、荷物置き場も十分なスペースがあるので快適。食堂等はユルタ(パオと同じ)、出されるキルギス料理は9割方おいしく食べられた。しかも栄養価十分で、野菜果物もたっぷり食べられる。C2からはロシア製乾燥食を利用した。お湯を注ぐだけで食べられるものだが結構おいしかった。トイレはBCは水洗式、C1は落とし込み、C2からは何も無くしかものっぺりした氷河のドン詰まりで隠れる場所が少なく、テント場からみえないところは限られている。
勢い他人の物を目の前左右に見ながら目的を遂げねばならず不愉快極まりなかった。

BC全景
ゆったりしたテント

草原 BCは草原地帯の一番奥にある。パミールの草原はマルコポーロも世界一豊かな牧草地と紹介したほどすばらしいもの。草原の風に吹かれていると実に心地よかった。馬に乗り、俳句を作り、夜は異文化交流と、都合12日間居たのだが飽きることはなかった。

馬と草原

敬礼 ソ連では高齢登山者が珍しいようだ。私に付いたガイドは毎日行動を無線で流していたらしくすれ違うガイド、ポーターが握手を求めてきたり、彼らから登山客にも情報がもれて72歳の爺さんよく頑張っているねえと激励をたくさん受けた。中でも映画俳優のように格好の良いロシア人若者が腹に手を当て 正面を向いたまま腰から15度ぐらい前傾して 心から尊敬いたします と挨拶されたときにはどのような受け答えをしたら良いのか戸惑った。

費用 すべてを含めて 28日間で約50万円 だった。

行動記録

 

 

 

 

テント内気温

行動表

高度

JUL

22

 

成田 13:30 アシアナ航空 103便-- ソウル(仁川) 16:00 着
ソウル(仁川)17:30発アシアナ航空 573便 Tashkent 21:00 着
Tashkent Sairam Hotel 泊

 

 

23

晴れ

 

車移動 Tashkent ⇒ Osh (9:40-17:15: 7時間35分)
Osh Sunshin Hotel 泊

1000 m

 

24

晴れ

 

車移動 Osh⇒ Achik Tash BC (9:40-15:00: 5時間20分)

3600 m

 

25

晴れ

 

完全休養

3600 m

 

26

晴れ

 

ペトロブスコバへの登り口の峠まで歩く (9:00-13:30)

3600 m

 

27

晴れ

1℃

トラベラーズ峠峡谷入り口まで歩く (10:30-12:30)

3600 m

 

28

曇後雨

 

BC⇒Osh 高度順応不足で下山 Sunshin Hotel 泊
(21:10-翌朝2:10: 5時間)

1000 m

 

29

晴れ

 

Oshにて静養

1000 m

 

30

晴れ

 

Oshにて静養

1000 m

 

31

晴れ

 

Osh⇒BCに戻る

3600 m

AUG

1

晴れ

4℃

BCにて静養

3600 m

 

2

晴れ

 

BCにて静養 ガイドのヴァディムと打ち合わせ

3600 m

 

3

晴れ

 

ペトロブスコ峰登頂 4700 m (8:10-16:40: 8時間30分)

4700 m

 

4

晴れ

 

静養

3600 m

 

5

快晴

6℃

静養

3600 m

 

6

快晴

 

BC⇒C1 (9:55-18:15: 8時間20分)

4400 m

 

7

3℃

C1にて静養 荷物の仕分け

4400 m

 

8

曇後雪

2℃

氷河の上を試し歩き (11:20-13:55)

4800 m

 

9

晴後曇

−4℃

C1⇒C2 (6:20-15:20: 9時間)

5300 m

 

10

快晴
強風

−6℃

C2よりラズデニナヤ峰目指して出発 5800 mで引き返し
(8:25-12:40-14:00  登り4時間15分 下り1時間20分)

5800 m

 

11

晴れ

−4℃

C2⇒C1 (10:05-13:20: 3時間15分)

4400 m

 

12

晴れ

 

C1⇒BC (10:45-15:35: 4時間50分)

3600 m

 

13

晴れ

 

BCにて帰国日調整

3600 m

 

14

晴れ

 

BC⇒Osh Sunshin Hotel 泊 (1:00 am-8:00 am : 7時間)

1000 m

 

15

 

 

Osh 泊

 

 

16

 

 

Osh⇒ Tashkent. Sairam hotel

 

 

17

 

 

Tashkent 発22:20 Asian Air 574便

 

 

18

 

 

ソウル(仁川)着 08:50
ソウル(仁川)発 10:00 Asian 航空 104便 成田 12:10 pm着