黒部周回山スキー

福森亮二

2009年GW前半戦で飛越トンネル~北ノ俣~黒部五郎~双六~新穂高のコースを歩いたメンバーを中心に4人パーティーで、黒部周遊の山行に行ってきた。黒部川を渡るルートとして廊下沢を下り、黒五跡を渡るという案もあったが、最後は、いるかさん念願の地「薬師見平」にテントを張る、というところからルートが決まった。ただ、事前の予報では、今年のGW前半は天気が悪く、特に5月1日は雨で終日沈殿となる可能性が高かった。そこで、行動日4日(1日目:飛越トンネル~太郎平小屋、2日目:~薬師見平、3日目:~黒部五郎避難小屋、4日目:~下山)、予備日2日の計画とした。

メンバー:いるか、えだ、Fの、のーきょー

4月29日

天候:曇り、風はあまりない。

9:15 大規模林道飛越トンネル手前4km付近

11:00 飛越トンネル

15:20 北ノ俣避難小屋着

 大規模林道飛越トンネル手前4km付近で路面に雪があり、これ以上車では入れない。2009年には飛越トンネルまで車で入れたのだが、今年は雪が多い。周辺には十数台が駐車している。カーブに雪があって車は進めないがすぐに雪が切れる。1時間近くスキーを担いで歩く。さらに路面上の雪をたどりシールで飛越トンネルまで。

 

【飛越トンネル手前で出発準備中】 

登山道はトンネル左手からトンネルの上を回り込むようについているが、トレースは右手の尾根にそのまま乗っている。間に小さい沢が入っているが、雪で埋まっている。重荷に喘ぎながら登高開始。

 

【少し青空が見えてきた。】

今日中に太郎平小屋に入る予定だったが、北ノ俣避難小屋についたのは、15時半。北ノ俣を越えて太郎平小屋まではまだ3時間程度はかかるため、今日は北ノ俣避難小屋泊まりとする。小屋は一杯。周辺にはテントが数張。われわれも小屋近くにテントを張る。

 

【北ノ俣避難小屋は3月と同じぐらいの埋まり方。水源は掘り出してあり、水がくめた。】

4月30日

曇り、強風。 次第に悪化し、12時ころ、薬師岳山頂では暴風雪のち雨。

3:50 北ノ俣避難小屋を出発

6:00 北ノ俣稜線 

7:30 太郎平小屋着

8:00 太郎平小屋発

12:00 薬師岳山頂手前避難小屋

12:30 撤退を決定。撤退開始。

15:00 太郎平小屋に戻る。

予定では薬師岳を越えて金作谷を下降し、黒部川をわたり薬師見平まで行くという重要な日程の日だが、天気が悪い。予報は良かったのだが。午後さらに悪くなるらしい。

日本山岳会広島支部の4人パーティーが朝早くに出発していった。われわれも後を追う。

2時間ほどで稜線到着。北ノ俣山頂は近いが、寄らずにそのまま太郎平に向けて下降する。だんだん天気が悪くなっている感じ。

 

【不気味な空模様】

太郎平小屋でトイレを借り、ココアを飲んで大休止。強風の中、薬師岳に向けて出発。広島のパーティーと相前後して進む。

 

【太郎平小屋を出る。この頃はまだそんなに悪い天気ではない。】

強風のため早めにアイゼンにかえて登高。新雪があり結構沈んで歩きにくい。

薬師岳山頂の少し手前にある避難小屋まで辿り着いたが、この時点ですでにガスが濃く、稜線の状態が見えない。雪庇があれば下れないが、確認ができない。

 

【薬師山頂手前。烈風。】

【いく筋も竜巻のような雪煙があがる。】

烈風。後で知ったが、30m/sの風だったらしい。あられが降り出す。下降点を探すため少し偵察するが、全く見えない。ガスが切れて視界が出ることもない。避難小屋の陰に戻ってどうするか協議。この頃には雨に近い雪になっており、下着まで濡れたとのことで撤退決定。

あまりの強風。ガスで視界も悪く、雪庇の状態も分からない。風が強すぎてスキーで下れる状態ではない。明日も悪天が予想される。などから撤退したのは大いに正解だったと思うが、耳元で怒鳴らないと意思疎通できない状態であり、撤退決定までに時間がかかったことは問題だっただろう。日本山岳会のパーティーも北薬師から引き返してきた。一緒に太郎平の小屋に戻る。雷鳴が聞こえる。戻る途中にも雨。さらに衣服が濡れた。

太郎平小屋に戻ると、小屋の人から「帰ってくると思ってました」と言われた。乾燥室に濡れた装備、衣服などを運び込んだ。かなり濡れており、テント泊では完全に乾燥させることは難しかっただろう。小屋があって助かった。

5月1日 終日、小屋で沈。強風と雨。

到底動ける天気ではなく、小屋でまったり。昼食に太郎平小屋名物のラーメンを頼む。厨房をのぞくと「明星中華三昧」を取り出してラーメンを作っていた。おやつにスキムミルクとプリンの素でプリンを製造。

 

【プリン。雪山山行の沈のときに作る定番おやつである。】

今後の進路を相談。予備日を使ってしまったので、計画を若干縮小。赤牛を越えてから温泉沢を滑り、雲ノ平を越えて、黒部源流を赤木沢出合付近で渡渉し、北ノ俣に戻る、というルートに変更した。初日は、薬師見平まで。二日目に雲ノ平かできれば黒部源流まで。三日目に下山。これなら2.5日程度の日程で最終日少し余裕があるはず。という計算だった(外れたが)。

5月2日 

天候回復。明日も好天の予報。

5:30 太郎平小屋出発

9:00 薬師岳山頂

10:00 全員がカールの底まで下降

12:20 金作谷出合到着

18:00 薬師見平着

風はあるが、30日ほどではない。気温は低く、雪面が固い。

薬師岳までは広い稜線。雪面が固いとスキーで滑るのが怖いので、時間を調整しながらゆっくり登る。風が弱いので、山頂までシールで登り上げることができた。

 

【薬師岳山頂へ】

山頂の祠のところから金作谷に入る。金作谷カールがきれいに見えるが、岩が2箇所ほど出ている。よせばいいのに、スキーで降り、滑落。岩にぶつかりそうになるが、必死にスキーのエッジを使って止めた。止まった。よかった助かった。足が下でスキーのエッジを立てられる体勢だったのでかろうじて助かった。

 

【金作谷カールを見下ろす。滑落し、写真左下に見える2つの岩にぶつかりそうになった。】

かなり急な斜面で山崎カールよりも急。雪面が固く斜度もきつかったので、アイゼンでクライムダウンするべきだった。後続はアイゼンにかえてクライムダウンしてきた。

カールの底で一旦傾斜がゆるむが、次のゴルジュ帯はさらに急傾斜。重荷だし技量もないので、下るのが精一杯。

 

【写真中央部に雪に埋まった金作谷出合、写真上部の丸く白い部分が薬師見平】

ゴルジュ帯の急斜面をどうにかこうにかこなすと傾斜が緩むが、昨日のものと思われる真新しい大量のデブリが谷全面を埋めている。滑る場所がない。谷の北側からは表層雪崩が出ており、南側は全層で雪崩ている。おととい昨日の高温と雨の影響だろう。今日はそれと比べると気温が低いし、これだけ落ちていれば当分は落ちないだろうと思うが、すさまじいデブリに恐怖を感じる。全層雪崩の跡からは、時折落石の音がしていた。

北面の表層雪崩の滑り面が出ており、そこだけがある程度平らになっている。狭いので終始横滑りでかろうじて下る。

 

【これは対岸に渡ってから金作谷を振り返って撮影したもの。金作谷下部はデブリに埋め尽くされている。】

ゴルジュ帯まで降りると金作谷出合が見える。出合は雪で埋まっていた。かなりしっかりしたスノーブリッジであり、渡れそうだ。ただ、流れに沿って割れ目が走っており、出合の前後はすでにブリッジが落ちている。大丈夫そうなところを探して渡るが、ドキドキものだった。この山行、心臓に悪いことが多い。

 

【金作谷出合から上流を見る。】

【同じく金作谷出合正面】

【金作谷出合の下流。対岸に渡ってからの撮影】

渡ってからも急斜面が続く。一部、全層雪崩も起きている。下流に少しトラバースして尾根に乗るのがよさそうだが、急な雪面をトラバースしなければならない。滑落したらすぐ下は崖。その下は黒部川。30mロープを4ピッチ出して慎重に通過。

 

【金作谷出合から下流を見る。崖に挟まれた雪面をトラバースした。】

続いて尾根を登高するが、崖が出てくる。そのたびに左にトラバース。雪が悪い。昨日の雨をたっぷり含んだ粗いザラメ雪。ステップが固まらず、体を持ち上げることができない。急斜面。一歩ずつステップを作っては20~30cmずつ体を持ち上げる。

 

【雪が固まってくれない。】

標高で250mほどをさんざん苦労して登り上げるとあとは斜度が緩み、スキーが使えるようになった。助かった。あとは景色を楽しみながら、薬師見平着。時間はかかったが、なんとか辿り着いた。薬師見平までなら余裕のある日程と思っていたが、とんでもなかった。

 

【薬師見平に向けて登高中。赤牛が見える。】

せっかくなので、薬師見平の一番高いところでテントを張る。風が心配だったが、星がきれない夜で風もほとんどなかった。天気はよく、四方の展望を楽しむことができた。

 

【薬師見平テントサイト。最高の展望だった。】

5月3日 曇り、一時小雪。風は弱い。

7:00 薬師見平を出発

12:50 赤牛岳山頂

13:40 温泉沢へのドロップポイント

14:00 滑走開始

15:20 高天原山荘前を通過

16:00~16:20 岩苔小谷手前で気象通報を聞く。

16:30 スノーブリッジを使って岩苔小谷を越える。

17:30 標高2315m地点で雲ノ平への尾根にのる。後続を待ち、幕営。

 

【薬師見平から見た薬師岳。カールが美しい。写真中央が金作谷。こうして見ると急傾斜。よく滑れたものだ。】

【薬師見平から廊下沢。下部は両側とも全層雪崩が起きている。】

赤木平からしばらくはシールでの登高だが、だんだん雪面が固くなってくる。

赤牛に向かう尾根の2500m~2600mあたりの稜線が細く、しかもそこそこ急。岩まじりの雪面を登る。雪面が固いので滑落したら何百メートル落ちるか分からない場所。大きなステップを作って慎重に登高。幸い、キックステップが出来る固さで、しっかりしたステップができる雪だった。もう少し状態が悪ければロープが必要となりさらに時間がかかっただろう。

 

【赤牛への登り。写真上から三分の一くらいのところが急だった。】

ここを抜けると斜度は緩むが、赤牛までの稜線が長い。北側斜面には雪が残るが、ところどころ雪庇が出ている。雪庇にひっぱられてできた深いシュルンドがある。ハイマツ沿いを進むが、穴が開いておりときどき雪にはまり込む。夏道の出ている部分では夏道を登高。シールと比べると効率が悪く、やたらと時間がかかる。

13時前になって、ようやく赤牛山頂着。

稜線を少し下降し、温泉沢へのドロップポイントへ。雪面は昨日ほど固くはなく、斜度も金作谷のゴルジュ部分に比べると少し緩い。何より谷が広い。今山行で初めて滑降を楽しむことができた。

 

【温泉沢を見下ろす。】

【温泉沢の滑走】

【温泉沢の滑走】

夢の平への分岐付近でシールを張る。このころになると少し雪が舞ってくる。上のほうはガスでおおわれて見えなくなった。低気圧の接近か。今日は標高が低いので問題ないが、明日の天気が心配。大休止を兼ねて16時の気象通報を聞く。日本海秋田沖に弱い低気圧がある。小雪が舞ったのはこの影響か。ただ、日本中1012ヘクトパスカル前後で気圧勾配は緩い。晴れるかどうかまでは分からなかったが、風はあまりなさそう。風さえなければガスでもなんでも北ノ俣は越えられる。

 

【高天原。岩苔小谷をわたって向こうに見える尾根に乗る。鞍部が高天原峠】

次は岩苔小谷の渡渉。高天原峠付近に直進したいところだが、谷が深い。やはり夏道付近が渡るのによさそうだ。谷の様子を見ながら進み、夏道に出て渡渉点を探す。スノーブリッジ(たくさんあった)で渡れる場所を見つけ対岸へ渡った。

今日の目的地は雲ノ平だが、時間がかかっており、たどり着けそうにない。18時を目途に、雲ノ平に通じる尾根に乗れればよしとして進む。

尾根に乗ったところに平らな場所があったので、幕営。ラジオ第一放送の天気予報では、明日は晴。

5月4日

晴れ 風も弱い。今山行で一番いい条件だった。

5:00 2315m地点テントサイト出発

7:00 雲ノ平 祖母沢源頭に到着。ここから祖母沢を滑走。

7:20 祖母沢をはなれ、赤木沢出合に向かう沢に入る。

8:00 赤木沢出合。渡渉点を探す。

8:40 全員が黒部源流の渡渉を終える。

9:10 標高2000m 赤木沢をスノーブリッジを使って越え、赤木沢左岸の尾根に乗る。

11:26 標高2465m 赤木平

12:25 標高2662m 北ノ俣山頂

12:50 北ノ俣山頂から滑走開始。

13:20 北ノ俣避難小屋

15:30 飛越新道と神岡新道の分岐点

16:45 飛越トンネルに下山完了

最終日。昨日の天気予報では北にある高気圧の影響を受け、晴れるらしい。危険箇所もないので、普通に歩ければ無事に下山できそうだ。

固くしまった雪面を雲ノ平へ。歩きやすく登高効率がよい。昨日、18時で切り上げたのは正解だった。

 

【雲ノ平に向けて登高】

雲ノ平からは右に回り込み、祖母沢の源頭部に出る。祖母沢は、なだらかで広く、もちろん無人。気持ちよく滑走できた。標高2300mあたりから右手にトラバースし、赤木沢出合の少し上流に下っている沢に入る。そこそこ傾斜があるが、樹林におおわれているので、樹木を縫っての滑走になる。

 

【祖母沢源頭部 なだらかで広い谷】

【祖母沢源頭部】

【祖母沢から赤木沢対面沢への乗越地点。渡ってからの登高ルートを検討中】

兎平に出て、渡りやすそうな場所を探す。残念ながらスノーブリッジが完全に残っている場所はなかった。半分くらいブリッジが残った場所で、黒部源流を渡渉。持参のわらじに履き替えて渡った。深さはほとんど足首程度、部分的に脛までの穏やかな流れで、簡単に渡れた。

 

【沢用靴下に地下足袋で渡渉。黒部川もこのあたりではごく浅いせせらぎである。】

対岸の沢を下降中に確認したところでは、北ノ俣への登高には、赤木沢左岸の尾根がよさそうだった。赤木沢はところどころ割れており、また滝も出てきて巻きが必要になる。赤木沢右岸沿いに登り、渡れないか様子を探る。幸い、最初に滝のすぐ手前にスノーブリッジが残っていた。

【赤木沢 手前のスノーブリッジを渡った。】

北ノ俣に向けスキー向きのなだらかな斜面を登り上げる。赤木平は手前からみるとおまんじゅうのようだ。左手から回り込んだほうが登りの労力は節約できるが、せっかく来たのだから、赤木平も踏んでおこう。赤木平からは小一時間で北ノ俣山頂。

【赤木平から北ノ俣への登高】

あとは下るだけ。トレースだらけでスキー場のゲレンデ状態の斜面を下り、北ノ俣避難小屋で給水。さらに下る。寺地山の登り返しを階段登高したのは疲れた。

 

【北ノ俣を振り返る。】

飛越新道と神岡新道の分岐で携帯電話がつながるポイントがあり、留守本部に無事下山中のメールを入れることができた。予備日が2日あり、今日4日が最終下山日だが、途中天気も悪かったし、心配しているだろう。連絡を入れることができ、肩の荷が降りた気がした。さらに下り、飛越トンネルへ下山。しばらく林道上の雪をスキーで下降。雪が切れたすぐ下に車が見える。6日間の山行中にかなり融雪が進み車が上がれるようになったようだ。Fのさんが車を取りに行ってくれた。靴を脱ぐ。靴擦れで足がぼろぼろ。気持ち切れるともう歩けない。車は歩いて40分ほど下にあった。

以上。