イリニザ北峰(5116m)(エクアドル)

安田隆彦

 

山選び:老後登山で高度順応の仕方が難しいことがわかった。いろいろ体験した末 登ったり降りたり繰り返すことが一番良いと感じ、それのやり易い所を探したところエクアドルの首都キトー周辺の山々が適当に思われた。

キトーは標高2850m。市内のケーブルカーで4100mまで、山頂駅から半日でルコピチンチャ (4800m)まで、いずれも市内から簡単に行ける。そこまでを時差ぼけの解消をしながら順応させたあと、キトーから一晩泊りでイリニザ北峰(5116m)、コトパクシ(5897m)、チンボラソ(6310m)と山ごとに2~3日休みながら順次高度を上げてゆける。2011年12月1日~21日の予定をたてた。

 

BC高度順応

BCになるキトーのホテルは標高2900m。30$で朝食、バストイレ付の清潔な部屋で庭にはハミングバードが舞っている。市中心部に位置し回りは食堂、商店も多く便利。そこで5日間時差ぼけ解消とケーブルカー利用の高度順応をした。ホテルからタクシー片道5$でケーブルカーまで、往復2.5$でケーブル山頂駅4100mまでスニーカーで行き 山頂駅の周りを散策したり本を読んだりして過ごした。

 

ルコピチンチャ(4800m)

12月6日 晴れ後ガス 

登り5時間(標準は3時間) 下り3時間

ケーブルカー山頂駅から草原の先に岩山が見える。右手のなだらかな尾根を登って最後の岩山は後ろに回り込んで登る。頂上直下30mぐらいは怖い岩登り。岩山までは家族ずれでも散策できる。 





イリニザ北峰(5116m)

12月8日 曇時々霰

キトーから車で2時間半 高度4000mの駐車場に着く。そこからゆるい潅木の坂と急なガレ場の坂が半分づつ。5時間かけてゆっくり4700mの非難小屋まで歩く。小屋はおいしい食事付で ベッドの大きさは日本の倍はありゆったり寝れる。

12月9日 ガス 小雪交じりの強風

午前1時半起床 2時45分小屋発 15分で南峰、北峰のコルに出る。そこからすぐに岩山となり ガイドとアンザイレンして短いながら急な岩や、きびしいトラバースを十数ヶ所。ガスで何も見えないため恐怖心が無いのが幸い。強風の気温は低く 服に氷がへばりつく。岩の上に薄く張った氷はヘッドライトで見分けがつかず 一足ごとに滑らないかどうか確かめながら歩かないと危険な状況だった。6時45分 岩が尖塔状になった頂上につく(登攀速度100m/hr)。下りは東北面のルートでザレ場の谷筋を下り、9時30分に駐車場に帰り着く(下降速度370m/hr)。    

左の南稜を登り正面のガレ場を降る
頂上に着いた数分間だけ薄日が差した

登山適期 

エクアドルは年中気温がほとんど変わらない代わりに 一日のうちに晴れ、曇、雨がよく変わる。その中でも午後天候の悪化する確立が高い。したがって山登りは昼までには終わらせるのが原則、午前7時になったらどこに居ても下り始めることになっている。そのため標準登攀タイム7時間のコトパクシは午前零時に出発、8時間のチンボラソは午後11時発になっている。登山は年中同じ条件。登山適期として12月1月、7月8月が言われているがそれは欧米人が休暇で多く訪れるのでそう言われているだけ。日本出発前に7時の制限時間の情報を掴めなかった。100m/hrのスピードではとてもチンボラソは無理と判断してあきらめ、コトパクシはガイドとネゴして午後8時に出発、翌朝7時に登頂を目指す11時間登り、6時間下りで再計画した。しかし残念なことにイリニザ下山中に右膝を少し挫いた。モーラステープ、ストレッチ、時間薬を期待して6日間回復を待った。痛みはまったくないのだがほんの少しの違和感がとれず 完全な調子で無いと判断し以降の登山は躊躇なく諦めた。

 

低酸素室

高度順化の為 出発前には富士山に2回登り さらに三浦豪太の低酸素室を利用してみた。4000mに相当する酸素量にした約20畳ほどの部屋で1時間、ゆっくり自転車漕ぎをしたり、寝たりして過ごす。そこで教わったのは呼吸法。パルスオキシメーターをつけたまま自転車を軽く漕ぐと血中酸素量が70%台に落ちる。それを息を吐くとき唇を少しすぼめると2~3分で80%台に上昇する。肺の内部圧力を少し上げるだけで血中酸素量が増え 高山病にかかりにくくなる訓練。事前の健康診断も含めて費用は1万円。4800mのリコピチンチャにて心臓の鼓動が落ち着いてから計測したら80%台の上のほうを示した。教わった呼吸法はかなり効果があることが実感できた。それが無意識に出来るよう今後訓練してゆきたい。

 

反省

イリニザ下山中、雲の下に出たら突然神々しい景色が現れ、見とれて歩いていたら小石でローラースケートのようになり尻餅をついた。それだけで以降の計画を中止せざるを得なかった。歩くときはどんなときでもしっかり足元を確かめながら歩くことを再認識させられた。車利用で、最後に1時間だけ歩けば到着する5000mのチンボラソ避難小屋に宿泊し、3時間ほど雪の中を歩いてみたが 特に異常が無かったので今回の高度順応は上手く出来たと思う。しかし天候が安定しないエクアドルの山は老後登山にはお勧めできない。