黒部横断

 

メンバー:アウター、いるか、えだ、Fの、のーきょー

時間記録:

18日
日向山ゲート出発(4:20)〜扇沢(6:50)赤沢に迷い込んだことが分かり、下降。1時間はロス。やれやれ。(8:40)〜大沢小屋付近(9:15)〜標高1800m(10:10)〜標高2000m(11:10)〜標高2200m(12:03)〜標高2400m(13:09)〜針ノ木峠着(14:06)〜針ノ木峠発(14:33)〜標高2200m(15:33)峠から2200mあたりまで、氷結モナカに苦労した。〜行動終了、幕営。標高1765m付近(17:35)

19日
幕営地出発(7:20)〜針ノ木谷出合いから湖面に出る。湖面の標高は1430m程度(10:10)〜黒部湖湖面縦断〜湖面から御山谷にあがる。(12:30)〜標高1600m(13:56)〜標高1800m(15:10)〜標高2000mにほぼ平坦地があったので、幕営(16:15)

20日
幕営地出発(5:40)〜御山谷標高2200m(6:18)〜標高2400m(7:00)〜標高2600m(7:56)〜一ノ越着(8:23)〜一ノ越発(9:24)〜室堂乗越(11:25)〜馬場島(14:20)〜伊折(17:10)

【黒部横断GPS記録】

 

2010年に最初に計画。当時、ぶなの会の三浦大介氏らの記録がネットにアップされていた。黒部湖の湖面の上を歩いて渡れるらしい。ほんまかいなと思いつつ、山岳部の先輩に聞いてみたところ、大昔、既に今回と同じようなコースでスキー山行をしており、湖面(雪に覆われるので凍結しないらしい)に積もった雪の上を歩いてダムまで行ったことがある、ということだった。それではということで計画を立てたが、2010年は悪天のため行けず、去年は大震災でそれどころではなかった。

今年も天気が悪く、好天は3日間のうち24時間程度しかなかった中、なんとか初期の目的を達することができ、会心の山行となった。

17日 土曜日 雨。
かなりしっかり降っている。気温も高い。雪崩が落ちているだろうなあ。入山を予定していたが、断念し、移動にあてる。早くも予備日を使ってしまった。9時、草津SA集合。

富山でFのさんと合流。昼食。作戦会議。予想天気図を資料に天気と行き先を議論。日曜日はあまりよくないが、針ノ木峠なら越えられるだろう。月曜日は移動高が来るので(ただし、真上に来るのは夜だが)、好天が期待できる。気圧配置は冬型だが、3月だしそんなに強い寒気ではあるまい(この予想は外れだった。)。火曜日は低気圧の接近でくずれてくる。でも、午前中くらいはもつのではないか(これは当たった。)。弱気の意見もあったが、以上のような予想のもと、とりあえず、針ノ木峠越えにチャレンジしてみることになった。

伊折まで車をデポしに行く。富山県警山岳警備隊の車の隣にFの車をデポ。

木崎湖畔の民宿に温泉付き素泊まり一人3150円を3000円に値切って宿泊。10畳くらいある広い部屋だった。

18日 日曜日
はっきりしない天気だが、かろうじて雨は落ちてきていない。

日向山ゲートに駐車。扇沢までは完全に除雪してあるので、スニーカーに履き替えて歩く。

扇沢からスキー。ガスがかかり、視界が乏しい。重荷でペースがあがらない。

日向山ゲート。ここから扇沢まではスキーを担いでの歩き
針ノ木雪渓を登高。デブリもあるが、GWころと違い登りやすい。

視界がないのにコースをよく考えずに登り、赤沢に入ってしまう。おかしいと思いながら(だったらGPSを見ろ、ということなのだが。)赤沢を150mほど登ったところで気が付き、シールのまま下って、針ノ木雪渓に戻った。1時間程度のロスか。

風は少しあるが、気温は高く厳しい条件というほどではない。しかし、メンバーの一人のペースがまったく上がらず、待つことがしばしば。頭が痛いらしい。水分をあまり持っておらず、全部飲んでしまったとか。脱水か。Fのさんが水をわける。重荷とは言え、1時間で200mくらいしか標高を上げられない。

14時すぎになって、ようやく、針ノ木峠着。

針ノ木峠手前。小さな雪庇が出ていたが、特に問題なし。

針ノ木谷上部は、適度な傾斜で広さもそこそこあり雪さえよければ楽しそうな斜面だが、強モナカ。昨日の雨と温かい天気で、表面だけ氷のようになっていて、滑ると割れる。1度ターンしてみたが、転ぶ。重荷ではターン不可能。この重荷では転ぶと消耗が激しい。滑ることはさっさとあきらめ、斜滑降・キックターンでひたすら高度を落とす。みんな苦労していてなかなか降りてこない。雪がよければ15分もあれば下れる斜面を1時間以上かけて下った。

針ノ木谷上部。モナカ雪に苦労した。

2200m付近まで下ると、ある程度曲がれるような状態の雪になり、ペースがあがる。しかし、しばらく行くと本流との合流点。ここからところどころ谷が割れている。スキーでは行けないので、担ぐ。途中、岩と氷のミックスした斜面もあり(トラバース2歩分くらいの幅だが)、アイゼンも付けた。

針ノ木谷の屈曲点。

しばらくスキーを担いだ後、広くなったところでスキーを履く。ほとんど斜度のない谷を進む。デブリのためか小高くなっているところもあるが、ほぼ滑っていける。

終始雪。冬型の気圧配置になることは分かっていたが、所詮3月の冬型だろうと甘くみていた。ところが、かなり強い寒気を伴っており、本格的な冬型だった。

ペースがゆっくりだったため、針ノ木谷出合までの予定だったが、断念。時間が遅くなってきたので、雪崩の心配がなく、水の取れる流れが近くにある平坦な斜面を見つけ、幕営。出合まであと3kmほどのところ。

テントに入ってほっと一息。ハードだったので足が攣った。

4テンなので5人は寝られない。ツエルトに二人が寝る。えださんとFのさんがツエルトに。風が強くツエルトでは大変だろうに、いびきが聞こえる。肝っ玉が太い。

夜になると次第に風と雪が強くなる。本格的な悪天。ものすごい強風が吹き荒れていた。谷の向きが北西に向かって開いており、風向きと一致したためだろうか。谷の中なのに風が強かった。雪がテントをたたく音が一晩中続いた。

19日 月曜日
朝、風はあるが、夜中のような強風ではない。雪も降り続いていたが小雪。20cmほど新雪が積もっていた。ツエルトは半分埋まっていた。

とりあえず前進することに決まり、撤収作業開始。

さて、行くか戻るか。予備日がない(本来は予備日1だったが、土曜日の雨で使ってしまっていた。)。冬型になることは予報天気図を見て分かっていたが、5時の予報では、予想していたより強い寒気が入っているようだ。その分、天気が悪い。撤退も念頭において進路を協議。当初は撤退の気分だった。

しかし、撤退するとすれば時間はある。5時の予報だけでなく6時の予報も確認することに。6時の予報では、午後天気が回復するとのことだった。にわかに元気が出る。出発前に確認した天気図と大きな違いが出ているわけではなさそうだ。

予想天気図どおりだとすると明日午前中くらいまでは、高所でも行動できる天気だろう。撤退するとしても明日午前中に針ノ木峠を越えればよい。だとすると、今日は少し戻っておけばいいことになり、針ノ木谷出合まで行って黒部湖の湖面を見てくる時間はありそうだ。渡れなければ引き返してくればいい。そしてもし天候が回復していて、しかも、渡渉ができそうなら、ザラ峠越えで立山に抜けられるかも知れない。今年は黒部湖の湖面が高いそうなので、針ノ木谷出合あたりまで湖面が来ていて、雪面がつながっているかも知れない。そうすれば御山谷に入って馬場島に抜けられる!かもしれない。

というわけで、とりあえず針ノ木谷出合まで前進することになった。

針ノ木谷下部は、傾斜はあまりないが、シールを付けるほどでもなくスキーで滑っていける。凸凹はあるが、なんとかスキーでこなせる(ときどき階段登高もあるが。)。土曜日のものと思われるデブリも出ていたが、大した支障はなかった。渡渉が3、4回。地図をにらみ右岸左岸のうちどちらを通過することになるのかを予想し、スノーブリッジがあり渡れそうなところで早めに渡ることを心がける。ザックだけ手渡しして空身で飛んだり、ザックを吊り上げて空身で登ったりはあったが、わらじ渡渉はなかった。(渡渉用にわらじを持参しており、いざとなれば素足にわらじで渡渉する予定だった。)夏道の橋が出ている箇所も1箇所あった。

渡渉。飛び石伝いに渡る。
夏道の橋が出ていた。
また、渡渉。

途中でいるかさんが「青空!」と叫ぶ。見るとうっすら青空が見えた。元気が出てきた。9時半ころには雪も風もやみ、好天が来た。

天候回復。新雪にコンデンスミルクをかけてかき氷のおやつ。

そしていよいよ針ノ木谷出合。近くまできて初めて黒部湖が見渡せた。雪面が完全につながっている!感激した。これなら当初予定どおり、馬場島に抜けられそうだ。

針ノ木谷出合。ようやく黒部湖が見えた。雪面がつながっている!

10:10ころ、黒部湖の湖面の上とおぼしき平坦面に出た。湖面の標高は1430mほど(GPSデータでは1430mから1433mの間)。針ノ木谷から雪面がつながっており、何の支障もなく歩いて湖面に入れた。

渡れるのであれば、御山谷のほうがいい。中ノ谷はゴルジュの通過に苦労する可能性があるし、ザラ峠からの湯川谷も堰堤が多く、大変らしい。それに車は伊折にデポしてある。

というわけで湖面を歩いて御山谷を目指す。

めったに見ることのできない景色を堪能しながら、黒部湖を縦断する。4kmほど湖面の上を歩いた。すべてが大きく、歩いても歩いても御山谷に着かない。途中、次回のために小スバリ沢の様子を見に行く。デブリだらけ。去年の金作谷のようだった。

湖面の上を散歩
画面左の尾根を回り込んで御山谷に入る。
・・・
湖面からみたスバリ岳。写真中央の沢が小スバリ沢。デブリが出ている。

湖面から御山谷に入る。谷が割れていて水がくめる場所があったので、大休止。時間的に当初予定していた浄土山まで行くのは無理なので、どこまで行くか。最終日のことを考えると2300mあたりまでテントを持ち上げておきたいところだが、これまでの登高ペース(せいぜい1時間あたり200m)、昨日の疲れ、ツエルトでは標高が高くなると厳しいと思われること、から標高2000mあたりの平坦地を目指すことにした。最終日も天候があやしく、好天はおそらく午前中しか持たないと思われた。午前のうちに室堂乗越を越えて立山川に入りたい。2000mからでも明るくなると同時に出れば、われわれの牛歩ペースでもなんとか午前中に室堂乗越を越えられるだろうと計算した。

御山谷に入った。

御山谷下部で苦労している報告もあったが、雪が多いためか、特に困難な箇所はなかった。下部で渡渉もあったが、スノーブリッジを利用して簡単に渡れた。ただ、下部は平坦なので歩けども歩けども標高があがらない。

御山谷下部

予想どおり、標高2000m付近にほぼ平坦な部分があった。時間も時間なので、ここで幕営することに。テントとツエルトを張り、周囲(北と西側)にブロックを積んだ。えださんにスコップによるブロック切り出しの特技があることが分かった。

御山谷標高2000mテントサイト

樹木も何もない吹きっさらしの場所だが、幸い、風は弱く、快晴。夜間には満天の星空が見えた。

お茶や飲み物、スープなどでたくさん水分をとり、明日に備えた。ただ、気温はかなり下がっていた。温度計は持参しなかったが、マイナス15度よりもっと下がっていたのでは。スポーツドリンクがカチンコチンに凍っていた。すきま風がとおるツエルトでシュラフから鼻と口だけ出して寝たが、鼻が冷たかった。

20日 火曜日
室堂乗越を午前中に越えたい。3時半に起きて準備。さすがに3日目なのでみんな手際が良くなってきている。

明るくなると同時に出発。御山谷を登高。新雪が積もっている部分をひろってシールで一ノ越まで登れた。登高中は晴れていたが、風が少しずつ強くなってきた。

御山谷を詰める。
一ノ越から室堂、奥大日岳、大日岳

余裕があれば雄山山頂まで行きたいが、今回は無理。一ノ越からすぐに下る。一ノ越からの下りは最上部20mほどが強クラストで横滑りで降りたが、あとはパウダー。気温も低く最高の雪。重荷でもターンできる。GWとは違い、室堂を独り占めしての滑走だった。ああ、来てよかった。

一ノ越から室堂へ。パウダー!

室堂乗越には11時半に到着。雲が空を覆い、雲底が下がってきている。室堂の視界がなくなるのも時間の問題か。なんとか際どく間に合った。

室堂乗越で一休み。だいぶ天気が悪くなってきた。

室堂乗越からの立山川も雪質がよくパウダー。ただ、新雪雪崩が怖いので、一人ずつ慎重に降りる。滑り出しはかなり傾斜があるが、雪質がよかったので苦にならなかった。馬場島まで終始パウダーだった。デブリが出ている箇所や割れて水が出ている場所もあったが、際どい渡渉はなく楽に下れた。午後は雪になったが、谷の中なので気にならなかった。

立山川上部。
立山川中間部
立山川下部。少し狭い部分もあったが、通過に問題なかった。

馬場島で山岳警備隊に呼び止められた。立山川は富山県登山届出条例の危険区域であり、5月15日までに立ち入る場合は、事前に登山届出が必要なのであった。厳重注意を受けた。今年はうっかり提出し忘れてしまっていた(室堂で思い出した。)。反省。

馬場島到着。ご苦労様でした。

伊折までの道路は除雪されておらず、スキーで行けた。

下山完了。しかし、Fの車に5人分の荷物とスキー板は積めない。スキー板を残し、日向山に戻り、薬師の湯で待望の温泉。伊折まで戻ってスキー板を回収し、帰阪。家に帰ったのはそろそろ夜が明ける午前5時過ぎだった。

このコースは、雪が多い年だったことが幸いしているのだと思うが、技術的にはあまり難しい場所はなかった。しかし、アップダウンを繰り返すのと歩行距離が長いので、体力的には大変。もう少しスピーディに行動できれば、気分的にも余裕のある山行になっただろう。

それにしても、広々とした黒部湖の上を歩いて渡るのは、この上なく気持ち良かった。ぜひ一度、やってみることをお勧めする。

福森 亮二