ヨーロッパ、オートルート報告(バージョン1)
日本山岳会アルパインスキークラブ
高尾文雄
² 日程:
4/1 シャモニー〜アローラ〜ディス小屋
4/2 ディス小屋〜ピン・ダ・ローラ〜ヴィネット小屋
4/3 ヴィネット小屋〜エベック・コル〜モンブール・コル〜ヴァルペリーヌ・コル〜ツェルマット
4/4 ツェルマット〜ザースフェー〜ブリタニア小屋
4/5 ブリタニア小屋〜ツェルマット〜スネガ〜ストックホルン〜ゴルナーグラート〜ツェルマット
4/6 ツェルマット〜グリンデルワルド〜クライネシャイデック〜インターラーケン〜チューリッヒ
² 参加者:4/1〜4/4
B班:矢口政武、木村員士、石原康生(4/3はA班の奥村邦夫と交代)
D班:田中博之、高尾文雄
4/4〜4/6はA,B,D班合同
² 報告:
l 4/1 快晴
シャモニーからバスでアローラを目指しバスで朝出発。移動日にはもったいないような良い天気で、素晴らしいシャモニー針峰群がハッキリ見える。ドリューもハッキリ見えた。前日から好天の期間に入ったらしい。
マルティニ駅でツェルマットに送る荷物を預け身軽になった。アローラへ行く途中でシオン城のすぐ近くを通り、記念撮影を行った。
アローラはスキー場がある標高2000mの小さな村でした。正面には明日登るピン・ダ・ローラが高くそびえている。バスを降りると4月になったばかりというのに大変気温が高く、雪も多くない。これでツェルマットは下まで滑れるかと心配した。外にいても暑いくらいで日本の5月の陽気に似ていた。
スキー場近くのレストランの屋外テラスで昼食を取って、ガイドのアンドリューを先頭に矢口、木村、石原、田中と私の5人がA班に見送られて出発。
長いTバー・リフトを一本乗り、終点はボウル状に開けた大雪原で木はまったく無い。すぐにシールを付けて出発。アンドリューを先頭にゆっくり、ゆっくり歩いていく。天気は良く、太陽を遮るものがない。大変な暑さだ。上の方からツアーに行っていた人達がたくさん滑り降りてくる。
コルまで上がると向こう側が開け、正面に大雪原の小高い丘のような上にあるディスの小屋が見えた。本当に大きく、長い氷河で、日本にはないので我々の想像を超えている。
このコルから下の氷河までは切れていて、岸壁に鉄の梯子が据え付けてある。向こう側からもたくさん登ってくるので、途切れるのを待ちながらザイルをセットした。木村、矢口、高尾、田中、石原、アンドリューの順に一本のザイルにつながり、ゆっくり梯子を下りた。大したことはないが、もし梯子が凍っていればこわいであろう。
しばらく雪面を歩いてからスキーをセットし、シールでディス小屋を目指す。大きく左から回り込んでディス小屋に着いた。大きくて、景色も良い快適な小屋でした。小屋の周りには滑るのに美味しそうな斜面がたくさんあり、ミニツアーがたくさん出来そうでした。
l 4/2 快晴
少し明るくなって出発。小屋から少し滑ってすぐにシールで登り始めた。ピン・ダ・ローラに向かって正面の氷河を左から巻くように越える。
越えると雪原が広がりピン・ダ・ローラが良く見える。遠くにマッターホルンも見えた。
右からぐるっと回ってセラック帯の上にでる。セラック帯の上をトラバースするときだけはガイドからクトーを付けるように言われた。
そこを過ぎれば後はだらだらの傾斜をただひたすらピン・ダ・ローラに向かって歩くだけとなる。ピン・ダ・ローラにはA班のみんながヘリで一足先に着いているのが見えた。我々を待っていてくれることがシーバーでアンドリューに伝えられた。
ピン・ダ・ローラはオートルート中の最高峰であるが、ピークではなくパスのようなところ。頂上では我々の仲間だけでなくスイス山岳兵がたくさんいた。昨日のディス小屋にもたくさんいた。訓練期間と重なったのであろう。
頂上からはモンブラン、グランドジョラス、マッターホルン等々様々な名峰が360度見渡せた。無風快晴、絶好の天気の下で長い時間をかけて景色を堪能した。
今山行初めての滑りとなるヴィネット小屋までの滑りは気温が高く、雪があまり良くなかったので難しい滑りとなった。
A班と別れアンドリューについてシュプールの少ない斜面を探し滑り込んだ。ブレーカブルクラストになっていて、難しく疲れる。アンドリューは姿勢が高く、膝が軟らかい、上体がぶれずに疲れない滑りをする。さすがはガイドである。我々とは格がまるで違う。
ヴィネット小屋に近づくにつれ雪はどうしようもなく悪くなり、滑るのがやっとになった。ヴィネット小屋は絶壁にへばりつくようにして建っている。どうやってこんな所に、またなぜこんな所にと思ったりする。トイレが小屋から急斜面をトラバースしたところにあり、トイレに行くのも命がけだ。(ただし落下防止の柵が最近でき、かなり安全になった)
夕焼けが大変きれいで、明日のルートを照らしている。明日がいよいよハイライトである。天気が良いことを祈る。
l 4/3 晴れ
夜明け前にヘッドランプをつけて出発。ピン・ダ・ローラに登るジグザグの光の列がある。我々はエベックのコルを目指して暗い中を凍った斜面を斜滑降する。尾瀬ヶ原の様な真っ平らな広い雪原に出たところで、シールを付けてヘッドランプを消した。朝焼けは周りの山々を染めてとてもきれいだった。
ゆっくりとエベックのコルを目指して登る。気温が低いので登りは順調。エベックのコルからの下りはルートがややこしい。ガスれば迷いやすい。至る所にクレパスの落とし穴がある。
トレースに沿いながらかつ、まだ踏んでいない新雪を求めてアンドリューが先頭を滑る。雪質は連日の高温に関わらずパウダーであった。傾斜もあり、かなり良い滑りが楽しめた。やはり日本と違い雪の湿気が極端に少ない。しばらく降らなくてもパウダーが維持される。シュプールのないところ狙いながら滑り降りた。
モンブールのコルまでは長い大雪原を横切ってから急な登りになる。初めてシー・トラーゲンとなる。連日の通行でステップが出来ていてなんの問題もなく上がれる。ここはもしアイスバーンでステップがなければアイゼンが必要。
モンブールのコルからはヴァルペリーヌのコルが目の前に見える。順調にここまで来た。ここからも素晴らしい景色が楽しめた。滑りの方は上部が雪質もパウダーで上々。傾斜も良く、快適な滑りが楽しめました。シュプールのついて無いところを狙って滑る。
ヴァルペリーヌの登りは気温が上がり、日差しも強く暑さにバテバテになってしまった。最後の力を出してコルに上がるとマッターホルンが目の前にあった。後はツェルマットまで登り無しの滑り一方である。みんなで握手。
高曇りではあったが、充分景色を堪能できた。ワックスをみんなで塗った後滑り出した。
思った以上に雪が良い。4日前に降った雪がこんなにもフカフカなんて日本では信じられない。こちらの雪は日本と違い乾いている。思い思いのシュプールで滑り降りる。傾斜もあり素晴らしい。マッターホルンを横に見ながら西壁、北壁の下を絡みながらどんどん滑り降りていく。広いのでまだバージンスノーが残っている。
かなり下りたところで、セラック帯を避けるため一度大きく右に振り、左にトラバースする。この辺りはガスが出ると分かりづらい。上からはクレパスはわかりにくいものだ。
その後は傾斜も落ち、ひたすらツェルマットを目指して飛ばす。スキー山行ならではのスピード。
シュワルツゼーのはずれにあるレストランに着き、みんなでジョッキを片手に乾杯した。
そこからもツェルマットは遠い。フーリーのゴンドラ乗り場まで酔っぱらい滑り。更にゴンドラには乗らず、ツェルマットのはずれの橋まで滑った。ホテルまではタクシーに乗った。疲れたけれど充実した山スキーでした。
その夜はツェルマットのレストランでガイドも一緒に祝杯を挙げた。
l 4/4 晴れのち曇り夕方から吹雪き
ツェルマットからザースフェーへ車で移動。町はずれからチャーターしたタクシーで45分。天気が良ければアラリンホルンに登る予定。明日はアドラーパスを越えてツェルマットに帰る。
ザースフェーのスキー場を上がるにつれて天気が悪くなり、ガスと風が出てきた。アラリンホルンはやめにして、スキー場で遊ぶ。スキー場のはずれにあるクレパス帯の中に入り込んだりして遊んだ。
アラリンホルンの肩まで行ったA班が帰った後に合流。みんなでブリタニアの小屋に入った。Tバーの終点からスケーティングで小屋まで行った。小屋は大変きれいで改装したところだったようだ。
l 4/5 吹雪のち快晴
風が強く、とてもアドラーパスは無理。(小屋で会った昨日行った人も凍っていてかなり苦労したとのこと)
全員でザースフェーのスキー場に引き返し、新雪のスキー場を滑る。下りるに従って次第に天気が良くなってきた。
すぐにツェルマットに車で引き返し、ホテルで支度してスキー場に出かけた。
スネガからロトホルンに登って昼食。ヘリも飛びだして、モンテローザ方面へしきりに往復していた。
アンドリューにガイドしてもらいストックホルンの北面のオフピステを昼から滑る。(矢口、奥村、田中、木村、田畑、高尾)北面のため昼からでもフカフカの新雪が楽しめました。スキー場から斜滑降でどんどん外れて行き、シュプールのないところを滑る。休み無しで滑り、今日の午後からで日本の一年分新雪を滑りました。
圧巻は、最後の滑りで、ゴルナーグラートのゴンドラ駅の手すりを越えて、すぐ下の岩の出ている急斜面には入り込んだ。シュプールはなく、日本だとすぐに誰かが文句行って来るような所。ノンストップの豪快で楽しい、素晴らしい最後の一本でした。(その後も只では下らず色々とオフピステを見つけては入り込みましたが)夕方にこんな良い雪を滑ることは日本ではあり得ない。ガイドのアンドリューもかなり乗っていました。
l 4/6 雪のち曇り
昨晩かなりの積雪があった。マッターホルンも隠れて天気は良くない。今日はグリンデルワルドにバスで移動。
グリンデルワルドはそれ程悪くなく、バッターホルン、アイガー、メンヒ、ユングフラウすべてよく見えている。
A、B班はメンヒヨッホの小屋を目指し、登山電車で登っていく。一人クライネシャイデックで分かれ、ウエンゲン、ラウタブルネン、インターラーケンに立ち寄りながらチューリッヒに電車で向かった。17年前スキーに来た時とあまり変わっていないので、何か安心した。特にラウタブルネンはほとんどそのままで、当時のホテルもすぐ見つかった。教会もそのままの姿でした。
チューリッヒ駅前のホテルに入ったときには夜の8時を過ぎていた。遅くに雨が降り出した。
l 4/7 雨
天気が悪く、A、B班の行動を心配しながら帰国の途についた。
以上
u オートルートに行って気づいたこと
l ガイドや山小屋はフランス語が中心で、ほとんど英語が通じない。フランス語、イタリア語、ドイツ語のいずれかを話せる方がいい。ガイド無しであれば、フランス語の理解力がかなり必要。
l 荷物の軽量化は徹底することが重要。出来るだけ小屋で調達することを考える。防寒具はあまり分厚いものは要らない。特に写真を撮る人はカメラやレンズで重くなる。
l 行動食は最低限の量で良い。歩きながらでも食べられるものを中心に揃える。ガイドは休みをあまり取らない(2時間に一度程度)また休み時間も短い。昼飯をゆっくり食べる時間はない。特に写真を多く撮る人は食べる時間はほとんど無くなる。
l 水は寒いときのテルモス、暑いときのペットボトルで合計一リッター前後必要。
l スキーの滑降レベルを上げる。滑りの時間が一番パーティーのスピードを左右する。どんな雪でも、どんな斜面でも滑れる「足前」があれば楽しくいける。
l ガイドがさかんに登りで山足キックターンの仕方を教えていた。抜き足を持ってくるときに、一度かかとをけってビンディングを開いてからトップを上げて素早く持ってくる。なかなかみんな出来なかった。ディアミールでは大変有効な方法。
l 現地ではスキーはダイナスターが多かった。ビンディングは圧倒的にディアミール。靴はノルディカ。
l きちんと手入れされた道具を持っていく。現地に行って不具合が出そうなものは事前に日本でチェックして買い換える。スキー、ビンディング、シール、ストック、ヘッドランプは特に念入りに。シールのトラブルは致命的。
l 暑さ対策もあり朝早く夜明け前に出発することが時々ある。ヘッドランプをつけてのスキー滑降もあり得るので、ヘッドランプは軽くて良いものを持っていき、予備電池は十分に。ペツルのLEDが良さそう。
l ビーコンとハーネスは行動中常に装着。
以上